dialogue, human and polyphony

「対話」や「人」についての気づき

河合隼雄に学ぶ、聴く姿勢

コーチングを習ったとき、傾聴には種類があり、集中的に聴き入ることと、全方位的に聴くことがあるという話を聞いた。

河合隼雄(1928-2007)は日本を代表する心理学者であるが、彼は後者の聴き方を基本としてクライアントに向き合っていたのだと思われる。
 
「細部ではなく全体を捉えること」、「そおっと聞くこと」、「全体に平等に注意を向ける」、「その人を本当に動かしている根本の「魂」を感じる」
など感覚的ではあるが、経験的には言い得ている言葉を残している。
 
例えば僕がいままでうけたコーチングでは、まるで仏と対峙しているかのような体験をしたことがある。その人の前に座っていると、するりするりと自分の口から言葉が出てくる。そして気づくと、その人は何も話していないのに、自分が何を考えているのか、何が課題なのか、何を求めているのかがクリアになり、力づいてくるという体験だ。
 
また、僕がコーチングにおいて人の話を聞いているときも、四言くらいしか言葉を出さずに場が終わる時がある。相手の中に答えがあることを信じ、見守っていることで、相手の中から自然と言葉が紡ぎ出されてくるのである。
 
コーチングをうけてくれた人から聞いた
「まさ(僕)に見られていると自分の内側を感じることができる」
という言葉もここでいう聴く姿勢を探究するヒントになりそうなフィードバックだ。
 
奥底にある何か見ようとするこちらの姿勢が、相手の意識を内側に向けさせ、自然と内観・内省の体験をもたらしているのだろう。
 
以下関連する箇所を、河合隼雄茂木健一郎の対談書籍『こころと脳の対話』より抜粋する。


河合 隼雄・茂木健一郎(2011).こころと脳の対話 新潮文庫
 
「私が部屋に入ってきた時、先生は、私の顔にも服装にも、全然関心を示されなかった」p161
 
「それだけじゃありません。先生は私の話の内容に、全然、注意しておられませんでした」p161
 
「何をしておられたかというのは、すごくむずかしいんだけれども、あえていうなら、もし人間に『魂』というものがあるとしたら、そこだけ見ておられました・・・」p162
 
「それが、僕がいまいっている、僕がやりたがってることなんですよ。その人を本当に動かしている根本の「魂」-これと僕は勝負している。こういう気持ちです」p162
 
「だから、そおっと聞いてないとだめなんですよ。言葉で、ワーッと動いていったりしないで。また、相手の言葉に動かされてもいけない」p162
 
「冷たいとか、あったかいとか、親切とか、一生懸命とかいうのと、まったく違う次元で座ってるんですよね。そういうふうに自分を鍛えてきたというか。はじめからできていたわけじゃないですけれど。」p163
 
フロイトの有名な言葉で、クライアントの人がこられて、お話を聞いているときは、「平等に漂える注意力をもって」といいます。英語でいうと、「フリー・フローティング・アテンション」」p175-176
 
相手のどこかに注意したらあかんというのと一緒で、全体に、平等に注意を向けている。そうしていてふっと気になるもの、それがやっぱり大事なんですね。そういうふうに考えたらいいと思う」p176
 
「そういう意味では、先ほどの話に戻ると、われわれは「中心をはずさず」に人と接するということを忘れてしまっているともいえますね。ある人のことを判断するのでも、その人の言葉や振る舞いに引きずられて判断しちゃったりしますよね」p191
 
「だから、そういう細部に飛びつかない、という姿勢がものすごく大事ですね。そうじゃなくて、その人を全体として見る。全体として見ていると、本当に人間というのはおもしろい。人間は誰でも、何をやらかすかわからん可能性をもっている。こう思いますね、本当に」p192

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